思いは一つ「“いい医者”でありたい」

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“命を救う”仕事に向き合う

image02.jpg 健児くん(以下:◆):先生は、医師?研究者?教育者という三つの顔をお持ちですね。
小川:私は「いい医者になりたい」と思い、この道を選びました。“命を救う”という仕事は大きな魅力でしたし、「いい医者になろう」という思いは今も変わっていません。医学の研究には、細胞やマウス、ラットなどの動物を用いて病気の原因やメカニズム、治療法などを研究する“基礎研究”と、患者さんを診察しながら臨床の現場で成績を出していく“臨床研究”。そして基礎研究の成果を臨床へとつなげる“橋渡し研究”があります。これからは“医学の理想”ともいえる“橋渡し研究”が担う役割が大きくなりますね。
◆:先生にとって“いい医者”とはどんなお医者さんですか?
小川: 正確な診断と的確な治療、高い技術を有する医師です。数多い専門の中でも、命に直結する循環器の“いい医者”でありたいと思いました。循環器内科の仕事は“超ハード”で、新患を受け入れると徹夜も珍しくありません。若い頃は自分が生きているだけで精いっぱい。徹夜続きで、ご飯を食べながらでも寝てしまうくらいがんばってましたよ。そのころの経験はとても貴重で、今も役に立っています。
致死的な不整脈があれば、3分以内に処置をしないと死に直結してしまうんです。しかし、「もうだめかもしれない」と思った患者さんが、後遺症も残らず劇的に回復することもあるのが循環器です。そこにやりがいもあります。いわば“逆転満塁さよならホームラン”を打てるんですから。その一方で、「できる医者」「できない医者」もはっきりと分かれるのが循環器内科の現場です。人は楽な方に流れたいと思うものですが、命に向き合うことの意義や自分自身の目標を明確に持ち、医師としての第一歩を踏み出す勇気を若者たちには持ってほしいですね。

治療に直結する臨床研究の魅力

image03.jpg ◆:先生は、日本人で初めて急性心筋梗塞患者へのアスピリンの有効性を立証した「JAMIS (The Japanese Antiplatelets Myocardial Infarction Study)」や2型糖尿病患者に対して低用量アスピリンを使用した一次予防について評価した「JPAD(Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Asparin for Diabetes)」など、数多くの大規模臨床試験の成果を発表し、世界中の注目を集められましたね。
小川:「JAMIS」については、当時急性心筋梗塞に対するアスピリンのエビデンス(科学的根拠)がなかったので、日本では保険適用されていませんでした。しかしアメリカでは、すでに心筋梗塞の後に少量のアスピリンが投与されていましたので、その有用性を確かめようと大規模臨床試験に取り組んだのです。日本循環器学会で発表の機会をいただいたのですが、聴衆はたった4人。この時のことは一生忘れられません。その後、論文が「The American Journal of Cardiology」に掲載されたことでエビデンスとして認められ、2000年にアスピリンの保険適用が始まりました。
「JPAD」では循環器研究の学会で最高峰といわれる「AHA(American Heart Association)」の初日に最新大規模臨床研究セッションでの発表と、「JAMA(The Journal of the American Medical Association)」誌に同時掲載される栄誉を日本人で初めていただきました。約1万人もの聴衆を前にハーバード大学、オックスフォード大学の教授と並んで発表できたことは、本当にうれしかったですね。
◆:先生がアスピリンの保険適用を実現したんですね!先生にとって臨床研究の魅力って何ですか?
小川:医学研究の花形は基礎研究。10数年前まで日本では臨床研究は評価されず、レベルが低い研究と思われていました。一人一人の患者さんに向き合い、多様な症例から導いたデータを分析するには膨大な時間が掛る上に、ネガティブ(陰性)なデータも多い。想定した答えを導き出せるようなきれいなデータを手にすることは難しいのですが、うまく行けば治療に直結させることができるんです。もし臨床試験結果が「効果がありません」となったとしても、それがエビデンスとして役立つ。それが一番の魅力です。これまで私たちが行った臨床研究が、さまざまな循環器疾患の治療ガイドラインに採用され、多くの皆さんの命を守ることにつながっています。

コミュニケーション力が“いい医者”を育てる

image04.jpg ◆: 2013年12月には「井村臨床研究賞」(公益財団法人成人血管病研究振興財団)を受賞されました。おめでとうございます。
小川:ありがとうございます。これまで指導くださった恩師や全国の共同研究者、試験に参加してくださった1万人近い患者さまのおかげです。私は本当に人に恵まれてここまで来ました。現在、私が副院長を兼務させていただいている国立循環器病研究センターは、私にとって特別な場所です。いつかは循環器専門の病院で勉強したいと思い、天草から大阪にある国立循環器病センターに飛び込んだ時には、土師一夫先生にお願いして心臓カテーテル手技を教えてもらいました。それはもうスパルタ教育で、本当にこれ以上はないと思われるほどの厳しい指導でした。ここで徹底的に基礎を叩きこんでいただいたおかげで、これまで事故もなくやってこれたのだと感謝しています。
◆:先生にとって、熊大で研究する意義とは何ですか?
小川:熊本大学での30年を含めトータル36年に渡り医師として働いてきて県内の至るところに協力してくださる医師がいること。そして私自身の人的ネットワークは全国にあり、互いにアイデアを出し合い、循環器に関する臨床研究を進めることができる。私にとって熊大は臨床研究をやりやすい場所なんです。
◆:2013年9月には、「第61回日本心臓病学会」が熊本で開催されましたね。
小川:長い学会の歴史の中で初めて熊本で開催することができました。コンベンションの開催を通して日本中に熊本を知ってもらい、若者には外国人研究者のアテンドを通じて、コミュニケーションの大切さも伝えることができました。そして来年は、私の夢であります日本循環器学会総会の会長をさせていただきます。この学会は2万人が参加する日本最大級の学会です。
これから大切なのはコミュニケーション力。患者さんやスタッフとのコミュニケーションは、よりよい医療に不可欠です。当たり前のことですが、まずは挨拶ができること。人として最低のコミュニケーションができず、いい医者になれるわけがありません。若い皆さんには、その小さな一歩から、夢に向かってがむしゃらにやってみようと伝えたいですね。

(2014年2月5日掲載)

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