ニッケル酸ビスマスの圧力誘起電荷非晶質化を発見 —熱膨張問題を解決する新たな負熱膨張材料の開発に期待—
(ポイント)
- ペロブスカイト型酸化物ニッケル酸ビスマスの特異な温度圧力変化を解明。
- 低温で加圧すると、Bi3+とBi5+の秩序配列が消失し、非晶質化することを発見。
- 温めると縮む、新しい負熱膨張材料の開発につながると期待。
【概要説明】
東京科学大学(Science Tokyo)* 総合研究院の西久保匠特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員)、東正樹教授、国立台湾大学の陳威廷(チェン?ウェイティン)研究員、英国エジンバラ大学のJ. Paul Attfield(ポール?アットフィールド)教授らの研究グループは、Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3という電荷分布(用語1)を持つペロブスカイト型(用語2)酸化物ニッケル酸ビスマス(BiNiO3)を低温で加圧すると、電荷非晶質(電荷グラス。Biイオンの並び方に秩序がなくなり、ランダムに存在する)状態になる、特異な温度圧力変化を示すことを明らかにしました。
ペロブスカイト酸化物は強誘電性や圧電性などの多彩な機能を持つことが注目されています。その一種であるBiNiO3は、高温?高圧環境で相転移し、負熱膨張(用語3)をすることが知られており、低温?高圧環境でも新たな電子相が出現すると予想されていました。
本研究では、BiNiO3を250 K以下の低温で圧縮すると、Bi3+とBi5+の秩序配列(用語4)が消失して電荷グラス状態になり、さらにこの電荷グラス相を昇温すると負熱膨張することが明らかになりました。BiNiO3のNiを一部Feで置換したBiNi1-xFexO3は負熱膨張材料として活用されています。今回の電荷グラス相でも同じような負熱膨張が確認されたことから、新しい負熱膨張材料の開発が期待されます。
本研究には、東京科学大学 総合研究院の酒井雄樹特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員、現総合科学研究機構)、Hena DAS(ヘナ?ダス)特任准教授(神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員)、福田真幸大学院生(現産業技術総合研究所研究員)、潘昭(パン?ザオ)研究員(現中国科技院 物理研究所准教授)、広島大学の石松直樹助教(現愛媛大学教授)、高輝度光科学研究センターの水牧仁一朗主幹研究員(現熊本大学教授)、河村直己主幹研究員、河口沙織主幹研究員、京都大学 化学研究所のSmirnova OLGA研究員、島川祐一教授、髙野幹夫名誉教授(現生産開発科学研究所理事長)、量子科学技術研究開発機構の綿貫徹放射光科学研究センター長、町田晃彦上席研究員、東京大学 物性研究所の高城重宏大学院生(当時)、上床美也教授(現総合科学研究機構、東京大学名誉教授、東京都市大学客員教授、東北大学特任教授)、英国ラザフォードアップルトン研究所のMathew G. Tucker博士が参加しました。
本研究成果は、3月5日付の「Nature Communications」に掲載されます。
【今後の展開】
結晶構造解析から、BiNiO3の電荷グラス相は強誘電性を持っていることが示唆されており、Niの持つ磁性との相関の解明に興味が持たれます。また、BiNiO3同様にBi3+とBi5+またはPb2+とPb4+を両方含む類似の化合物の高圧高温/高圧低温環境での振る舞いも明らかにしていきたいと思います。
(論文情報)
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Pressure-Induced Charge Amorphisation in BiNiO3
著者: Wei-tin Chen, Takumi Nishikubo, Yuki Sakai, Hena Das, Masayuki Fukuda, Zhao Pan, Naoki Ishimatsu, Masaichiro Mizumaki, Naomi Kawamura, Saori I. Kawaguchi, Olga Smirnova, Mathew G. Tucker, Tetsu Watanuki, Akihiko Machida, ShigehiroTakajo, Yoshiya Uwatoko, Yuichi Shimakawa, Mikio Takano, Masaki Azuma* and J. Paul Attfield*
DOI:10.1038/s41467-025-57247-1
詳細:プレスリリース
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