ダム湖の堆砂対策としての「置き土」が劣化した河川環境と生物多様性を同時に回復させることを初めて検証
【概要説明】
奈良女子大学准教授 片野泉,北海道大学准教授 根岸淳二郎,熊本大学准教授 皆川朋子,兵庫県立大学准教授 土居秀幸,徳島大学准教授 河口洋一,(国研)土木研究所?名古屋工業大学教授 萱場祐一から成る研究チームは,ダム湖内の堆砂対策として全国のダム河川で実施されている「ダム下流域への置き土」(以後、「土砂還元」)が,河床環境の改善のみならず,生物群集や生物多様性をも改善することを初めて定量的に検証しました。本研究の成果から,ダム河川における「土砂還元」事業が生物の個性豊かな川づくりを可能にすると期待できます。また本研究は,劣化した河川生態系を改善するには適切な土砂量が重要であることを指摘することで,今後の「土砂還元」事業の手法についても提案しました。
本研究成果は,令和3年(2021年)4月8日18時(日本時間)に,英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
【今後の展望】
土砂は本来,河川に大量に存在する自然資源です。本研究は,日本のみならず世界中に存在するダム河川下流域において、自然資源を利用した「土砂還元」を適切に行うことで健全な河床環境や生物群集の回復が可能となることを示唆しており,特に河川行政分野における重要な指針を示しています。
河川は私たちの社会にとても身近な存在です。著者らの研究チームは,生物多様性の高い河川では人による河川の利用が促進されることも示しています(生物多様性の文化的サービス,Doi et al. 2013)。本研究が示した効果と注意点をふまえ,「土砂還元」を適切に行うことで,健全な河川生態系の回復と人間社会への文化的サービスの向上を目指すことも可能になると考えられます。
【論文情報】
- 論文名:Effects of sediment replenishment on riverbed environments and macroinvertebrate assemblages downstream of a dam
- 著者名:*片野泉(奈良女子大学)、根岸淳二郎(北海道大学)、皆川朋子(熊本大学)、土居秀幸(兵庫県立大学)、河口洋一(徳島大学)、萱場祐一((国研)土木研究所?名古屋工業大学)(*は責任著者)
- 雑誌名:Scientific reports(英国)
- 引用文献
Katano I, Negishi JN, Minagawa T, Doi H, Kawaguchi Y, Kayaba Y. (2009) Longitudinal macroinvertebrate organization over contrasting discontinuities: effects of a dam and tributary. Journal of North American Benthological Society 28: 331-351.
Doi H, Katano I, Negishi JN, Sanada S, Kayaba Y. (2013) Effects of biodiversity, habitat structure and water quality on recreational use of rivers, Ecosphere, 4, art 102. http://dx.doi.org/10.1890/ES12-00305.1
【詳細】
?プレスリリース本文(1213KB)